大新聞も官邸も常軌を逸しているー「小沢嫌い」ここに極まれり!ー支持率「自由自在」、名簿もない党員に「サンプル調査」、宗男判決「疑惑のタイミング」ほか

「小沢嫌いここに極まれり!宗男判決疑惑のタイミング〝小沢氏支持76%自社ネット調査を削除した読売〟」  その他
「小沢嫌い」ここに極まれり! 宗男判決「疑惑のタイミング」〝小沢氏支持76%自社ネット調査を削除した読売〟「週刊ポスト」投稿者 行雲流水 日時 2010 年 9 月 20 日 から転載します。

週刊ポスト」9.24日号 平成22年9月13日(月)発売 小学館 (通知)

画像 記事初頁

大新聞も官邸も常軌を逸している
「小沢嫌い」ここに極まれり! 
 支持率「自由自在」、名簿もない党員に「サンプル調査」、宗男判決「疑惑のタイミング」ほか

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「最後のご奉公」と総理の椅子に挑んだ小沢一郎民主党前幹事長を代表選で苦しめた真の敵は、現職総理の管直人氏でも、官邸の策士たちでもなかった。得体の知れない〝民意〟を振りかざし、醜聞合戦、虚報合戦を仕掛けてくる「第4権力」巨大メディアにより、政策論争は吹き飛ばされた。国民不在の謀略戦の内幕を詳らかにする──。

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 官邸発の「小沢批判スクープ」

 民主党代表選の終盤は、大メディアと菅官邸が歩調を合わせた「小沢総理、許すまじ」キャンペーンが一段とエスカレートした。
 偶然というにはできすぎなのが9月8日、最高裁鈴木宗男新党大地代表の受託収賄事件で上告棄却を決定、同氏の失職が確定したことだ。鈴木氏といえば熱烈な小沢支持者であり、激しい検察捜査批判を行なってきたことで知られる。
 この日、小沢氏は夕方に国会内で記者会見を控えていた。一方の菅陣営は、小沢会見にぶつけて午後5時から支持議員の緊急決起集会を招集し、小沢支持派議員にまで「これは党の行事だから出席するように」と庄カをかけて切り崩し工作を進めていた。上告棄却の一報は、双方のイベントの直前というタイミングだったのである。

 三権分立の一翼を担い、「司法が政局に影響を与えることに慎重」とされる最高裁が、代表選のさなかに政治的影響の大きい判断を出すのは異例中の異例なのだ。鈴木氏自身、会見で判決のタイミングについてそうした疑念を語っている。
 そして、それ以上に異様だったのが新聞・テレビの報道だ。年内に最高裁の判断が下されることは予想されていたし、有罪判決が覆りそうにないことも司法記者たちには織り込み済みだったにもかかわらず、新聞は号外を出し、民放テレビはニュースで鈴木氏と小沢氏の映像を交互に流して「収監へ」と報じた。まるで「小沢有罪」のような編集手法だったのである。

 民主党議員121人が出席した菅氏の決起集会は、「小沢の盟友」の有罪確定に盛り上がった。裁判官出身で菅陣営の選対本部長を務める江田五月・前参院議長はこう演説した。
「政治とカネの問題は、過去の問題ではない」メディアと菅陣営は鈴木氏の上告棄却を巧妙に「小沢ネガティブキャンペーン」に利用した。
 翌9日には、小沢陣営を次なる醜聞報道が見舞った。
週刊新潮』が小沢ガールズ青木愛・代議士と小沢氏の政策秘書の不倫疑惑を報じると、『週刊文事』は青木氏と小沢氏本人の〝密会〟映像なる記事を出した。
 両誌には一部同じ写真が使われ、同一人物と思しき「青木氏の元秘書」が登場することから、情報源が重なっていることが窺える。
 それ以上に興味深いのは、記事発売の3日前の6日夜、両誌の記事の締め切り前にもかかわらず、菅陣営の事務方スタッフがツイッターで 〈木曜日に変な記事が出そう。泥仕合にならなければいいが〉 と、報道を予告していたことだ。
政治部記者や議員秘書の間で「木曜日に出る記事」といえば、『週刊新潮』『週刊文春』を指すのは常識。菅陣営は雑誌の発売どころか、記事が完成する前にその内客まで掴んでいたことになる。

 明らかに官邸発の〝小沢批判スクープ〟も飛び出した。5日に毎日新聞が報じた小沢派議員の「不正投票」疑惑だ。秋田で小沢派議員の後援者が党員・サポーターから投票用紙を白紙で回収しているというもので、読売と産経も後追いした。
 不思議なことに、毎日の記事の発信元は秋田支局ではなく、管側近の寺田学・首相補佐官(秋田1区選出)と近い官邸詰め記者の署名記事だった。また、寺田氏は自身のプログで、毎日の記者が「証拠もお持ちのようです」と書き、党の不祥事に大喜びの様子だった。

 ところが、秋田の代表選挙管理委員会民主党中央選管に不正を告発したものの、中央選管は7日に関係者から聴取した上で、「噂話の類で、回収を依頼したとされる人物も特定されていない」と不受理にした。
 選管委員の一人、川上義博参院議員が語る。
「この件は菅総理からも〝きちんと対応していただきたい〟と連絡があった。
 しかし、秋田選管などへの聞き取りでは、不正の根拠がはっきりしない。よく調べもしないまま、何らかの意図をもって告発や報道が出たなら重大問題です。秋田選管には事実関係を調べるように伝えている」
 だとすれば、調査段階で、代表選候補者である菅首相自身が選管委員に口を出したのは「庄力」という誤解を生む。小沢氏が「検察のあり方」を口にしただけで大批判する新聞、テレビはなぜこの件で菅批判をしないのか。それどころか、調査の結果「疑惑なし」だったことすらきちんと報じていない。


(写真)ネットの調査とはまったく逆の結果


 無策でも増える内閣支持率

 大メディアは得意技の「世論誘導」も繰り出した。
 参院選後に30%台まで落ちた菅内閣の支持率は、代表選中は59%(読売新聞7日付朝刊)までバネ上がり、菅首相は「大変嬉しい」と顔をほころばせた。
 が、この間に管内閣は何をやったというのか。当の大メディアは「円高と株安に対して全く無策」と批判してきたはずだ。何の要因もないのに支持率が2か月あまりで急増すること自体、大メディアが自ら「世論調査の数字は自由自在でいい加減なもの」と認めているも同然である。
 しかも、その世論調査までも政争の具として官邸に差し出している。
「代表にふさわしい人物」の世論調査(9月3〜5日調査)は、読売が「菅66%小沢18%」、朝日も「菅65% 小沢17%」と菅首相が小沢氏に大きく水をあけている。この調査結果は報道前日には番記者から菅陣営の選対本部と官邸に報告され、それを受けて前原誠司国交相が会見で、「議員は国民の望む方向で投票すべき」と去就に迷っている議員票の取り込みを図るという連携プレーが演じられた。

 一方で、新聞・テレビは「小沢支持者の声」には耳を塞ぐ。東京と大阪で行なわれた立会演説会では、いずれの場所でも小沢氏の演説に大きな拍手と小沢コールが沸き起こったのに対し、菅首相への賛同の声は盛り上がらなかった(43㌻からの上杉隆氏のレポートで詳述)。
 それでも大メディアは、それを「小沢人気」とは解釈しない。共同通信が、「小沢さんは相当、動員したな」という声を報じるなど、〝あれはサクラによるヤラセ〟という報道一色なのだ。
 現地では菅、小沢両陣営がほぼ同数の秘書たちを動員してビラを配っていたが、これが〝菅コール〟だったらサクラ疑惑は報じられたのだろうか。
 また、仙谷由人官房長官は記者会見で、小沢氏が代表選に勝って検察審査会の評決で強制起訴された場合、「衆院はいつでも不信任決議によって内閣を倒すことができる」という憲法学者の論文に触れ、「小沢首相なら内閣不信任に賛成する」ことを示唆した。大メディアはさも当然のことのように仙谷発言を取り上げたが、仮に小沢氏が「菅首相になったら不信任に賛成する」といおうものなら、猛然とバッシングしたに違いない。

 読売の「小沢支持の声」の隠滅術はさらに露骨だ。同社のネット調査「みんなのYES/NO」で、小沢氏支持が76%、菅氏支持が24%と新聞の世論調査と正反対の民意が示されたことは本誌前号で報じたが、なんと同紙は調査結果そのものをサイトから削除した。読売は削除の理由について「掲載期限が過ぎたため」と説明するが、代表選が終わるまで公開するのが当然だろう。
 日本新聞協会研究所の元所長で立正大学講師の桂敬一氏の指摘は鋭い。
「本紙との整合性がつかないとはいえ、ネット調査を削除したのはメディアとしての責任放棄です。むしろ、なぜ新聞の電話調査とネットで正反対の結果が示されたのかを検証することこそ、ジャーナリズムの役割のはず。これでは世論調査を読者や視聴者、つまり国民のためではなく、自分たちの主張通りに世論や政治を動かすための道具としか考えていないと見られても仕方がない」

 そうした非科学的な世論調査の究極の例が代表選の情勢報道だ。
 毎日新聞は9月8日付朝刊1面で「菅首相やや優位党員・サポーターで勢い」との見出しで、(党員・サポーター票では、首相の地元の東京や(中略)神奈川、静岡、三重、京都、岡山、山口、徳島などで先行する選挙区が目立つ〉と、中盤情勢を報じた。
 いかにも各地で党員・サポーターの調査をやって傾向を分析したように読者には映るが、そうではない。民主党は党自・サポーター名簿を菅、小沢両陣営にさえ公表しておらず、各議員も自ら集めた党員以外、誰がサポーターなのかわからないのである。世論調査の原則は、無作為抽出のサンプリング調査だが、毎日は名簿がない党員をどうやって無作為に抽出して声を聞いたのか。
 世論窮査研究で知られる松本正生・埼玉大学教授が語る。
「選挙惜勢分析は科学的な世論調査ではありません。各紙とも、34万人の党員・サポーターの票読みに困っている。それだけいれば世論調査と同じ傾向だろうという判断なら菅優勢の見方になるし、党員を集めた議員と同じ投票行動になると見れば、違った分析になる。当てずっぽうに近く、あまり意味はない」
 その程度の分析で議員投票に影響を与える報道をするのはミスリードといわざるを得ないし、もし仮に党員名簿が漏れるようなことがあったなら、それこそ重大問題である。

 小沢サイドに有利な話を徹底的に無視するのは世論調査だけではない。例えば9月7日に細川護熈・元首相が小沢氏に電話をかけ、「首相をやれるのは小沢さんしかいない。私も一生懸命応援します」と支持表明したことなど、新聞、テレビはほぼ黙殺した。民主党議員や党員には、細川氏の薫陶を受けたり、かつて支持したりした者が少なくないのだから、これは重要なニュースだ。有権者に伝える意味は「青木愛の不倫疑惑」よりずっとある。また、これで非自民政権の首相経験者のうち、菅氏を除く細川、羽田孜鳩山由紀夫の3氏が揃って小沢支持に回ったことも興味深い事実ではないだろうか。


 政策論争では官僚が後方支援

 だが、「菅優勢論」を煽る新聞・テレビにとって、実は最も都合が悪いのが「政策論争」なのである。
 首相就任以来、株価急落や、円高に有効な手を打てない菅首相に対して、立会演説会での小沢コールや、ネットで小沢支持が高い理由は「小沢氏が政策で勝っている」という評価に基づいている。
〝菅圧勝〟の読売の世論調査でさえ、経済立て直しへの期待度は「菅37% 小沢36%」と桔抗し、政治主導を実現できるのはどちらかという質問では「菅39%小沢43%」。朝日の調査でも実行力では「菅34% 小沢49%」と大差がついている。
 大メディアは「代表選を政策論争の場にすべき」という建前を掲げてきただけに、政策論で菅氏が劣っていることは小沢批判との自己矛盾を起こしてしまう。
 そのため、官僚、閣僚、メディアが一体となって「小沢の政策をつぶせ」と論陣を張っている。
 槍玉にあがったのが、小沢氏が打ち出した地方への一括交付金制度だ。現在の国の補助金はひも付きと呼ばれ、各省庁が使途に細かく注文をつける。例えば市町村が250万円の防火水槽を1基作りたくても、1000万円以上でなければ補助金が出ないから4基作らなければならないといった無駄遣いを招いていた。小沢氏は演説会などで、自治体に一括して交付金を渡し、地域の実情に合わせて独自の判断で使えるようにすれば予算の使い方も効率化できると主張した。一括交付金民主党が昨年の総選挙でマニフェストに掲げた政策でもある。p-39

(写真)大新聞の〝援護〟を受ける菅陣営(8日の決起染会)